新世紀の生き方、物語の世界

栗本慎一郎の経済人類学、白川静の漢字学、日本の古代史、日本人の起源論、小説や好きな本の話題など書いていきます。何ですが、ニュースとか、ネットの話題も多いです。

卜占と成功哲学の関係、白川静、漢字の世界観

 

白川静 漢字の世界観 (平凡社新書)

白川静 漢字の世界観 (平凡社新書)

 

 

◇ 殷王朝の漢字の起源の甲骨文(後に青銅器の書かれた金文)ですが、亀や鹿の骨を焼いて、ひび割れを見るという卜占に書かれた神聖文字だったようです。

だから、これは占いなんだと思ってたのですが、どうもそうじゃなくて、例えば、飢饉で雨が降らない時に、卜占で10日後に雨が降るという占いを得たとして、聖職者や巫祝王がそう宣言することによって、それを実現するという『神への宣誓』のような意味合いだったようです。

呪能をもつ神聖文字を甲骨に刻むことにより、文字の呪能の力で現実を変えるという性質のもでした。

もし、10日後に雨が降らなかったら、巫覡(聖職者)の中の身分の低い、身体の不自由な者などが犠牲になって火あぶりになり、神への犠牲として、雨が降るまでやるというものでした。巫祝王自らが火の上に身を置くことも、しばしばあり、占いというより、言わば必達の目標を神に祈るという意味合いだったようです。

実際、雨が降らなければ、飢饉が治まらなければ、その共同体そのものが滅びるということもあるので、これは必死の祈りだったと思います。少ない犠牲で何とかなるなら、どちらにしても、飢饉で共同体の人々がバタバタと倒れるのは必然だったからです。

例えるなら、カルロス・ゴーンのコミットメントのようなもの、成功哲学の紙に自らの目標を書いて、実現を神に誓うという性質のものでした。

甲骨に神聖文字を刻み、朱色の丹(流化水銀)で染め、神に宣誓し、その結果、成果を後で刻んだそうです。

ということで、目標を文字にして紙に書いて計画を立てるという成功哲学の手法は、呪能がある神聖文字を刻むような呪術的な意味合いがあるということになります。

呪術の中には、呪うという意味と、祝うという意味があり、未来の引き寄せたい願望を『予祝』することでそれを実現する呪術ということになります。

こういうものは、中国古代の『詩経』や日本の『万葉集』の古代歌謡の中にあり、花びらをちぎって、恋人が帰ってくるかどうか占うという花びら占いは、実は恋人が帰ってくるまで、何度も占い直した『予祝』だったかもしれません。

甲骨文も、実は、思うような占いが出ない場合、もう一度、占い直したりしたそうです。そういう辻褄合わせ的な痕跡は、失敗しても、その占いを必ず実現させるという古代人の呪術、祈りの痕跡であったようです。
http://1000ya.isis.ne.jp/0987.html