新世紀の生き方、物語の世界

栗本慎一郎の経済人類学、白川静の漢字学、日本の古代史、日本人の起源論、小説や好きな本の話題など書いていきます。何ですが、ニュースとか、ネットの話題も多いです。

万葉集と詩経の謎について/知の巨人、白川静

 

白川静 漢字の世界観 (平凡社新書)

白川静 漢字の世界観 (平凡社新書)

 

 
◇ 最近、取り寄せた、漢字博士の白川静さんの解説本なんですが、ぞくっ、とする本です。

特に、日本の『万葉集』と中国の『詩経』の共通点についてなのですが、ふたつとも、古代歌謡が集められた書物です。

白川静さんによれば、漢字の起源は『巫祝王』を頂点とする、殷王朝(に続く、周王朝も)の呪術的古代中国社会の文化にまで遡ります。

甲骨文字、金文の研究から、白川静さんは、漢字の起源が、鹿や亀の甲羅を焼いて吉凶を占う『卜占』から生まれ、王に仕える巫覡(ふげき、巫女、覡男、男女の呪術師のこと)が神や天意を告げる神聖文字から出発したことに辿り着きます。

『口』(サイ)という字の起源は、祝詞を入れる箱であり、呪術的意味があることを突き止めていきます。『口』(サイ)の上に、十(楯の形)を置いて守ると『古』。『口』(サイ)の上に、マサカリを置いて守ると『吉』というように、体系的に漢字の起源を解明していきます。

中国の呪術的古代社会の文化は、中国の『詩経』と日本の『万葉集』にも流れ込んでいる。

歌自体が祝詞や呪文であり、そういう文脈で『詩経』や『万葉集』の意味が全く違ったものになります。


◇ 例えば、女性が野原で夫の帰りを祈りながら、花を摘むという歌があって、実はこれは花を摘むことで、夫の無事の帰宅を神に祈り、願をかけるという呪術的行為であるといいます。

あるいは、天皇の皇子が、ある特定の場所(呪術的結界)に、冬至の日に訪れて、一泊する歌があるのですが、実は早逝した先代の天皇霊を継承する儀式であるとか、という真相が見えてきます。

ただ、時代が進むにつれて、そういう古代社会の文化は崩壊していって、その原意は忘れ去られていきます。

ちょうど、藤原不比等らが、『古事記』や『日本書記』、『万葉集』などを編纂した後ぐらいから、神の時代が終わり、人間の世界が始まるころから、大和朝廷の祭祀を司る忌部氏(織田信長が忌部氏の血を引いていたとか)が中臣氏(藤原氏の祖先です)に勢力を削がれていく過程で、そういうことが起こっていきます。

中国では、殷、周王朝の後くらいから、古代社会は崩壊していきます。

白川静さんは、漢字の起源である、殷王朝の『巫祝王』を頂点とする呪術的古代社会の文化を読み解いていく過程で、『詩経』や『万葉集』中にその文化の要素を見出していきます。


◇ その研究の継承は、白川静さんの死によって、途絶えてしまってますが、非常に荒っぽい例えですが、週刊少年ジャンプ連載中の『NARUTO疾風伝』のような世界だったかもしれません。

忍びの祖である、六道仙人のような『巫祝王』、そこから生まれた『写輪眼』のうちは一族、『強力な生命力』をもつ、森の千手一族のような人々、特殊能力をもつ一族、王に仕える職能に秀でた巫覡の一族たち、そういう古代氏族社会があったのだろうと想像できます。

忌部、刑部、土師部、須恵部、麻績部、弓削部、渡部、語部、馬飼部、海部、鳥飼部、犬飼部などなど。

白川静さんの世界観は、そういう古代文化を読み解く、貴重な鍵のようなものだと思います。

 まだ、本は届いたばかりで、もう少し読んでから、感想を書きます。

呪の思想 (平凡社ライブラリー)

呪の思想 (平凡社ライブラリー)